よく聞くけど詳しいことはよく分からない、そんなサルコペニアとフレイルについてまとめてみました。

サルコペニア、フレイル、どちらも虚弱になってしまっている状態というイメージがあるかと思います。

サルコペニアとフレイルについて、よく分からないという方、当然です。
なぜなら絶対的な定義がなく、研究報告は段々と増えてきているような状態だからです。

今回はこれらサルコペニアとフレイルについて簡単に紹介したいと思います。

サルコペニアについて

サルコペニアとは

サルコペニアは高齢期に見られる骨格筋量の減少筋力もしくは身体機能の低下により定義される。

引用:サルコペニア診療ガイドライン2017

加齢などの原因による筋肉量減少、筋力低下などをきたした状態をいいます。

サルコは「肉・筋肉」、ぺニアは「減少・消失」を意味するギリシャ語です。

サルコペニアは世界中の様々な団体で、定義や診断方法などが提唱されています。
2010年のEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)が最初です。

サルコペニアの原因

加齢のみ」を原因とする1次性サルコペニアと、「活動・栄養・疾患など」を原因とする2次性サルコペニアに分けることが出来ます。

1次性サルコペニアの原因である「加齢」によって、筋細胞や運動ニューロンの減少、成長ホルモン、テストステロン、グレリンの分泌低下、筋タンパク質合成能の低下などが起こることで、サルコペニアになると考えられています。

2次性サルコペニアの原因となる「疾患」には、骨折、熱傷、感染症、悪性腫瘍、膠原病、心不全、筋萎縮性側索硬化症、甲状腺機能亢進症など様々あります。「疾患」そのものというよりも、疾患による「安静」がサルコペニアを生じる場合もあります。

病院においては、入院している方は既に何かしらの疾患を持っており、ベッド上で過ごす時間も多いです。栄養投与に注意しなければ、簡単に2次性サルコペニアの3つの原因が揃ってしまいます。

no-su
病院では、誤嚥性肺炎で入院し、ベッド上で寝たきり、さらに食事摂取不良となってしまう方がおり、これだけで疾患・活動・栄養という3つの要素を満たしてしまいます。
そのため、「栄養」という部分でいかに介入できるかが、サルコペニアを防ぎ退院を早めるのに重要になってきます。

サルコペニアの診断

サルコペニアの定義・診断はヨーロッパのEWGSOP(European Working Group on Sarcopenia in Older People)、アジアのAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)、そして日本肝臓学会などから発表されています。
診断基準に関して、今の所絶対的なものは存在しません。今回はEWGSOPの定義するサルコペニアをご紹介します。

サルコペニアの診断基準

  1. 筋肉量の低下
  2. 筋力の低下
  3. 身体能力の低下

筋肉量の低下を必須とし、それ以外に筋力の低下または身体能力の低下がある場合にサルコペニアと診断する。

引用:EWGSOP サルコペニアの診断基準

これら筋肉量、筋力、身体能力の測定法としては、臨床診療の場で可能なものとしては以下のようなものがあります。

  1. 筋肉量:BIA(生体インピーダンス解析)、DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)、身体測定
    ※身体測定は上腕中央周囲経やふくらはぎ周囲経が使用されますが、測定誤差が大きく、日常的に使用することは推奨されません。
  2. 筋力:握力測定
    ※握力は下肢筋力と相関します。
  3. 身体能力:簡易身体能力バッテリー(SPPB)、通常歩行テスト、Timed-up-and-goテスト(TUG)

また、サルコペニアを重症度に応じて分類することもできます。

プレサルコペニア:筋肉量低下

サルコペニア:筋肉量低下+筋力または身体機能低下

重症サルコペニア:筋肉量低下+筋力低下+身体機能低下

引用:EWGSOP サルコペニアの段階

サルコペニア肥満

サルコペニア肥満はサルコペニアと肥満もしくは体脂肪の増加を併せ持つ状態であり、それぞれ四肢骨格筋量の減少とBMIまたは体脂肪率またはウエスト周囲長の増加で操作的に定義される。しかしながら、評価方法やカットオフ値は定まっていない。

引用:サルコペニア診療ガイドライン2017

サルコペニアの患者さんの中には肥満も併せ持っている場合があり、これを「サルコペニア肥満」と言います。
サルコペニア肥満の明確な診断基準はありませんが、日本ではBMI25以上で肥満としているため、それが大体の目安になるかと思います。

ただ、BMIでは骨格筋量減少と体脂肪増加を評価することが出来ないため、体組成を調べるために、DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)やBIA(生体インピーダンス解析)が用いられます。論文などの報告の中では、DXAが用いられているものが多いです。

サルコペニアと予後

サルコペニアでは転倒、骨折、フレイルとなるリスクが高い。

サルコペニア肥満では脂質異常症となるリスクが高く、また心血管疾患による死亡、総死亡のリスクが高い。

サルコペニアを合併すると癌患者の生存率が低下する。

サルコペニアを合併すると手術の死亡リスクが高くなる。

引用:サルコペニア診療ガイドライン2017

サルコペニアと運動・リハビリテーション

サルコペニアを有する人への運動介入は、四肢骨格筋量、膝伸展筋力、通常歩行速度、最大歩行速度の改善効果があり、推奨される。

引用:サルコペニア診療ガイドライン2017

サルコペニアへの対応は栄養療法だけでは不十分です。栄養療法を前提としたうえで、運動・リハビリテーションの実施が重要になってきます。

運動・リハビリテーションについては、私は専門ではないので詳細は省きますが、筋タンパク質の合成という目的であれば、レジスタンストレーニングが優れているようです。

レジスタンストレーニングとは、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかけるトレーニングで、スクワットや腕立て伏せのようなトレーニングです。
レジスタンストレーニング直後にBCAAを摂るとより効果的ともいいます。

しかし、低栄養時のレジスタンストレーニングは逆効果となる場合があるので注意が必要です。疾患などによる2次性サルコペニアの場合にはレジスタンストレーニングが向かない場合があります。


フレイルについて

フレイルとは

加齢に伴う体の機能が衰えることによる、「健康な状態と要介護状態の中間の状態」を指します。つまり、要介護状態の前段階であるとも言えます。

フレイルの語源は「Frailty(虚弱)」からきています。

フレイルには様々な要因が関与しており、筋力低下や低栄養といった「身体的フレイル」、認知機能低下や抑うつといった「認知的フレイル」、独居や外出減少といった「社会的フレイル」に分類することが出来ます。

これら3つのフレイルは互いに影響しあっており、一言で「フレイル」と言っても様々な面や要因が関係しあっています。

身体的フレイルは、筋力低下などによる身体機能低下によって、転倒・骨折といったADL低下を招き、要介護状態へ導く主要因とされています。

身体的フレイルの要因としては、「低栄養」と「サルコペニア」が中心にくると考えられています。

認知的フレイルは、身体的フレイルに軽度の認知機能障害(認知症には至っていない)が合併した状態です。認知機能と身体的フレイルは相互に影響しあっています。

認知的フレイルの要因としては、軽度認知障害や生活習慣病、栄養障害、うつなどが存在しています。

社会的フレイルは、独居などから社会活動への参加や社会的交流の機会が減少し、身体機能や認知機能の低下に影響している状態です。

社会的フレイルの要因としては、閉じこもり、孤立、孤食などが挙げられます。

身体的フレイルの診断基準

サルコペニアと同様に、フレイルの診断基準も絶対的なものはありません。

そんな中、「身体的フレイルの診断方法」として広く用いられているが、Cardiovascular Health Study(CHS)基準です。

このCHS基準をもとに日本版CHS(J-CHS)基準が作られており、体重減少・倦怠感・活動量・握力・通常歩行速度から身体的フレイルを判断します。

J-CHS基準

下記5つの評価基準のうち、3つ以上に該当するものをフレイル1つまたは2つに該当するものをプレフレイル、いずれにも該当しないものを健常または頑健とする。

  1. 体重減少:6ヶ月間で2~3kg以上の(意図しない)体重減少があるか
  2. 倦怠感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがするか
  3. 活動量:「軽い運動・体操を1週間に何日くらいしているか」、「定期的な運動・スポーツを1週間に何日くらいしているか」の問いに対してどちらも「していない」か
  4. 握力:(利き手における測定)男性26kg未満、女性18kg未満の場合
  5. 通常歩行速度:1.0m/秒未満

引用:国立長寿医療研究センター フレイルの進行に関わる要因に関する研究

身体的フレイルの診断基準をみると、「体重減少」があり、栄養とのつながりが見えてきます。

no-su
何かしらの疾患で入院してくるような高齢者には、特に上記の5つのうちどれかが、もしくは複数が該当することが多いです。ちなみに、認知的フレイルと社会的フレイルの診断基準・定義はまだ定まっていません。

サルコペニアとフレイルの関係

骨格筋量の減少による「サルコペニア」と、要介護状態の前段階である「フレイル」はそれぞれ密接に関係しています。

フレイルは身体的フレイル・認知的フレイル・社会的フレイルにそれぞれ分類できますが、その中の身体的フレイルの重要な要素としてサルコペニアが存在しています。

つまり、身体的フレイルには低栄養や運動機能低下、口腔機能低下などの要因がありますが、その要因の一つとしてサルコペニアが位置付けられていると考えられています。

サルコペニアをそのままにしておくと、フレイルが進行し、要介護状態に至ってしまいます。

サルコペニア、フレイルと栄養

サルコペニア・フレイルに陥る原因である栄養への介入が、そのままサルコペニア・フレイルの予防と治療につながります。

適切な栄養摂取、特に1日に(適正体重)1kgあたり1.0g以上のタンパク質摂取はサルコペニアの発症予防に有効である可能性があり、推奨する。

引用:サルコペニア診療ガイドライン2017

骨格筋量の減少を防ぐために、タンパク質の投与が重要になります。特にBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)は筋タンパク質を構成しているアミノ酸の中で最も多いとされています。
BCAAの補給によって筋肉量が増大したという報告もあります。BCAAは鶏肉、牛肉、魚、卵、チーズ、豆腐、納豆などに多く含まれます。

低栄養状態の改善を目指す場合には、1日のエネルギー消費量をそのまま補っても改善には向かいません。1日のエネルギー消費量に加えて、200~1000kcal程度追加でエネルギーを補給する必要があります。

サルコペニア、フレイルと薬剤師

no-su
薬剤師とサルコペニア、フレイルとの関りは、まあ普通はないですね。
はい、サルコペニア、フレイルに焦点を絞って服薬指導や処方提案するということは、通常ありません。
ただ、ポリファーマシーがサルコペニアにつながるという報告もあるので、薬剤師による減薬の提案が間接的にはサルコペニア、フレイルを減らすということにはなると思います。そう信じたいです。
サルコペニア、フレイルは入院中に進行することもありますが、その下積みが築かれるのは自宅での低栄養や孤立などです。
病院薬剤師だけでなく、調剤薬局の薬剤師もこの問題に介入できるようになるとサルコペニア、フレイルに陥る方が減っていくのではと感じます。

まとめ

サルコペニア・フレイルは最近とてもよく耳にする言葉ですが、その定義や診断などはまだしっかりと確立されていません。

ですので、サルコペニア・フレイルについての研究報告もしっかりとしたエビデンスのあるものはまだこれからになるかと思います。

ただ、どちらも栄養という観点からは非常に重要な障害です。栄養と運動を上手につなげながら介入していくことが大切になります。

最新情報をチェックしよう!