知らないとやばい、リフィーディング症候群とは?

リフィーディング症候群、私は栄養を学ばなければ知りませんでした。しかし薬剤師にも大きく関係する栄養を投与する際に最も注意が必要なものの一つ、それがリフィーディング症候群です。

リフィーディング症候群とは?

リフィーディング(refeeding syndrome)の「refeed」とは、食料などを「再供給」するという意味で、端的に言えば「急に栄養を再供給することで起こってしまう一連の合併症の総称」となります。

この結果、最悪の場合心不全や高血糖、低血糖などからの死亡につながるケースがあります。しかもこれは入院後の栄養投与によって引き起こされる、つまり医療従事者によって引き起こされる可能性があるという意味でも大変注意が必要なものになります。

リフィーディング症候群の病態

リフィーディング症候群とはどのようなものなのか、その流れをまとめます。

  1. 栄養障害が長期に続く高度の低栄養状態
  2. 糖質が枯渇しているため脂質やタンパク質をエネルギー源にして生命維持
  3. refeeding(再給食)。栄養を食事、点滴などで投与
  4. エネルギー源として糖質を再び使用
  5. インスリン分泌が刺激される
  6. インスリンによって細胞内に糖が吸収され、ATP合成やタンパク合成が促進。さらに低栄養でもともと少なくなっているP(リン)、K(カリウム)、Mg(マグネシウム)も細胞内へ移行。また、インスリンによるナトリウム再吸収促進。
  7. 低血糖、低P血症、低K血症、低Mg血症、浮腫、ビタミンB1欠乏などの発現
  8. 不整脈、心不全、筋力低下、意識障害、肝機能障害など

①栄養状態が長期に続く高度の低栄養状態

リフィーディング症候群発現の準備期間のような感じで、まずは低栄養状態で糖質を中心にビタミン、ミネラルなど色々と枯渇していきます。

低栄養が続くことなんてそんなにないと思うかもしれませんが、病院に入院されるような方、もしくは既に入院しているような方だと低栄養に関わっていることが少なくありません。

誤嚥性肺炎などの影響。独居や老老介護でごはんの準備が出来なかった。アルコール依存症や神経性食思不振症。
低栄養で入院してくる方は結構多い印象です。特に誤嚥性肺炎や家でちゃんと食事をとれていなかった方は痩せていて低栄養状態の方が多いです。
栄養投与不足。抗がん剤などの治療による食思不振。
栄養投与不足、これについては医療サイドが引き起こしている栄養障害です。手術前後の栄養不足、誤嚥性肺炎の治療中、食事摂取不良な方への過度なリハビリなんかが多いかと思います。

②糖質が枯渇しているため脂質やタンパク質をエネルギー源にして生命維持

外からのエネルギー源摂取ができなくなると、肝臓に貯蔵してあるグリコーゲンで糖質を補います。ただグリコーゲンは半日ほどで枯渇してしまいます。グリコーゲンが枯渇すると今度は脂肪や筋肉などの体タンパクをエネルギー源として利用します。特に脂肪は糖質、タンパク質の約4kcal/gと比べて約9kcal/gものエネルギーを持つため、飢餓時には中心的なエネルギーとなります。インスリンの作用の一つに脂肪の合成があり、この段階だと脂肪を分解して利用する必要があるのでインスリンの分泌は抑制されています。

③refeeding(再給食)。栄養を食事、点滴などで投与

この段階では低栄養状態のため体の様々な栄養が枯渇し、インスリンの分泌が抑制されています。この状態で一気に栄養を投与することでリフィーディング症候群に向けて動き出してしまいます。

ちなみに、経口よりも点滴の方がリフィーディング症候群を引き起こしやすいと言われていますが、経口でも発生するため注意が必要です。

④エネルギー源として糖質を再び利用

⑤インスリンの分泌が刺激される

糖質が補給されることで、糖質を細胞内に吸収するためにインスリンが分泌されます。

⑥インスリンによって細胞内に糖が吸収され、ATP合成やタンパク合成が促進。さらに低栄養でもともと少なくなっているP(リン)、K(カリウム)、Mg(マグネシウム)も細胞内へ移行。また、インスリンによるナトリウム再吸収促進。

糖の代謝に利用されるビタミン(特にビタミンB1)も糖を一気に代謝する過程で一緒に消費されます。

インスリンの役割としてあまり知られていないかもしれませんが、その作用の一つに腎尿細管に作用してナトリウムの再吸収を促進するというものがあります。ナトリウムの再吸収促進は水の再吸収促進を意味します。つまり、体内に水がたまりやすくなります。

⑦低血糖、低P血症、低K血症、低Mg血症、浮腫、ビタミンB1欠乏などの発現

⑧不整脈、心不全、筋力低下、意識障害、肝機能障害など

  • 低血糖:やっと入ってきた糖がインスリンによって細胞内に吸収されて低血糖になります。逆に、過剰なエネルギーの投与はインスリンの作用が追い付かずに高血糖になってしまいます。
  • 低P血症:リフィーディング症候群で特に典型的な血液検査の所見は血清リン濃度の低下です。リンはATPの材料であり、リンが一気に使われてしまうことでATPを必要とする各臓器で障害を起こします。不整脈、心不全、筋力低下、意識障害、肝機能障害といった致死的な障害を引き起こします。
  • 低K血症、低Mg血症:カリウム、マグネシウム濃度の低下は不整脈を引き起こす可能性があります。低P血症と合わせて致死的な影響となりえます。
  • 浮腫:インスリンによるナトリウムの再吸収促進作用によって浮腫が起こります。急激な浮腫によって心臓に負担がかかり心不全を増悪させます。
  • ビタミンB1欠乏:糖代謝が一気に行われることでビタミンB1も一気に消費されます。ウェルニッケ脳症や進行すると心不全を引き起こす脚気の原因となります。

どのような人に起こりやすいのか?

低栄養状態が続き、飢餓状態になっている人に特にリフィーディング症候群は起こりやすくなっています。

慢性アルコール中毒、神経性食思不振症、肥満者の急激な減量、長時間の低エネルギーの静脈栄養、長期間の絶食、がん悪液質などの病態
これらの条件に当てはまる人は特に、高度の低栄養状態にある可能性が高いため初期投与エネルギーを制限して投与する必要があります。

診断基準、予防法

リフィーディング症候群の診断基準として特に決まったものはないようです。ただ、イギリスのNICE診療ガイドラインに「リフィーディング症候群の高リスク患者の判断基準」というものがあり、高リスク(リフィーディング症候群を引き起こしやすい患者)の判別に有用です。

NICE診療ガイドラインに基づく判断基準


リフィーディング症候群の高リスク患者の判断基準

以下の1項目以上を有する

  • BMI<16kg/m²
  • 過去3~6か月のうちで意図しない15%以上の体重減少
  • 10日間以上の絶食
  • 低P血症・低K血症・低Mg血症を栄養療法前に認める

もしくは以下の2項目以上を有する

  • BMI<18.5kg/m²
  • 過去3~6か月のうちで意図しない10%以上の体重減少
  • 5日間以上の絶食
  • アルコール中毒、インスリン、化学療法、制酸薬、利尿薬などの使用歴

また、このガイドラインではリフィーディング症候群を予防するための栄養投与法についても述べています。

NICE診療ガイドラインに基づく予防法


  1. 投与熱量は10kcal/kg/dayで開始し、4~7日かけて徐々に増量する
  2. 極度の低栄養(BMI<14もしくは15日間以上の絶食)の場合は5kcal/kg/dayで開始する。
  3. 脱水の補正と同時にP,K,Ca,Mgを補正する
  4. 最初の2週間はこれらの電解質を慎重にモニターし投与量を修正する
  5. ビタミンB1を1日200~300mg経口で投与する

重要なのは「少量の熱量からスタート」しようということです。

投与熱量について、健常成人であれば25~35kcal/kg/dayくらいであることが多いため、10kcal/kg/dayの少なさがよくわかると思います。体重40kgの人なら1日400kcalが目標になります。おにぎり2個分です。

やっくん
でも実際は低い熱量で投与しても低血糖になってしまって、ガイドラインよりも高い熱量を投与することになることもあるみたいだね。
 

実際に遭遇、リフィーディング症候群予備軍

リフィーディング症候群についてやばいやばいとお伝えしてきましたが、実際にその予備軍に遭遇してドキドキしたのでその時のことを簡単にお伝えします。検査値など詳細は覚えていないです、すみません。

ある日NSTラウンドの予習としてカルテで新規の患者さんの予習をしていました。すると神経性食思不振症の方がおられ、体重は少なく、採血データを見るとすでに血清リン値とカリウム値が基準よりも低値となっていました。

「やばい、これやばそうなやつや・・」

リフィーディング症候群を起こす準備万端という雰囲気のデータでした。もし主治医が低栄養だからと点滴などで積極的に栄養を投与すると一気にインスリンが分泌され患者の生命に関わります。

そこで私は、

「でもなあ、主治医も分かっているかもしれないしな、薬剤師からそんな注意喚起しないよな普通、うん」

と考えるへたれっぷりでしたが、我に返り

「いや、患者さん死ぬかもしれないし、知ってしまった以上は対応しないとだめだろ」

ということで主治医に連絡し、ついでに未測定だった血清マグネシウムの採血も追加してもらい、リフィーディング症候群予備軍として治療をすることになりました。また、NST担当の管理栄養士さんにも連絡しNSTラウンド前に情報の共有を行い、NSTラウンドでも検討がなされ、無事に退院まで向かっていきました。

薬剤師とリフィーディング症候群

薬剤師には関係ないやと思うかもしれません。実際私もNSTに参加して栄養の勉強をするまで知りませんでした。しかし薬剤師は点滴のオーダーをチェックします。経腸栄養剤のオーダーをチェックします。チェックした以上はそのオーダーが原因でリフィーディング症候群につながってしまった場合薬剤師にも責任が出てくる可能性があります。まあいちいちこの人は高リスクかな?とじっくりカルテを見ていたら通常業務に支障をきたす部分もあるかと思いますが、こんなやばい代謝合併症があるということを頭の片隅に置いておくことは必要かと思います。

まとめ

飢餓状態の患者さんへの栄養補給は慎重に!

長々とまとめてきましたが、このリフィーディング症候群の怖さはなんといっても患者さんが重篤な状態になる可能性があるという点と医療従事者が引き起こすという2点の恐ろしい組み合わせにあると思います。

低栄養の人がいる限り、リフィーディング症候群はどの病院、施設でも起こる可能性があります。

そのため、病院に入院する以前の段階(町のクリニック・薬局など)で栄養・食事についてもしっかりと意識され、低栄養になりそうな人を早いうちからケアできればそもそも長期間の低栄養というものがなくなります。私はそれによってリフィーディング症候群を減らすことが出来ると思っています。

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