超重要!脂質と脂肪乳剤(イントラリポス)を理解する!投与速度の計算方法も紹介。

「脂質」といえば、一般には「太るから避けたい」というイメージが強いかと思いますが、栄養学的には3大栄養素である糖質、タンパク質に並ぶ、とても重要な栄養素であります。

そしてこの「脂質」は口から食事を摂れていれば意識せずとも摂取できますが、点滴から栄養を投与している患者さんにはしばしば忘れられがちです。しかし、その重要性は静脈経腸栄養ガイドラインでも示されています。

静脈栄養施行時には、必須脂肪酸欠乏症予防のため、脂肪乳剤は投与しなければならない⇒グレードAⅢ

静脈栄養施行時には、肝機能障害ならびに脂肪肝発生予防のために脂肪乳剤投与は有用である⇒グレードAⅢ

引用:日本臨床栄養代謝学会 静脈経腸栄養ガイドライン

今回は脂質の「役割」と「実際の使い方」についてまとめていきます。

今回の内容の概要です。気になるものがあればぜひ読んでみてください。

  • 必須脂肪酸欠乏症予防のため、完全静脈栄養の患者には脂肪乳剤は必須
  • 脂肪乳剤投与の目的は、エネルギーと必須脂肪酸の投与
  • 投与速度は「0.1g/kg/時」を推奨
  • 側管から投与する場合は栄養輸液中の薬剤に注意が必要
  • 疾患ごとの使用例
  • 感染予防のため、適宜フラッシュやルートの交換を行う

脂質について

脂質は脂肪酸を主成分とする物質の総称で、構成成分によって中性脂肪、リン脂質、コレステロールなどに分類されます。

3大栄養素の一つとして、ヒトが生きていくのに欠かせないものです。

脂質の分類と役割とは

脂質は中性脂肪、リン脂質、コレステロールなどに分類できますが、それぞれの役割について紹介します。

  • 中性脂肪:生体における主要な貯蔵エネルギー
  • リン脂質:細胞膜の構成要素。また、リン脂質からプロスタグランジンやロイコトリエンが合成され、細胞間の情報伝達などを行う。
  • コレステロール:細胞膜の構成要素。また、コレステロールから胆汁酸、ビタミンD、ステロイドホルモンなどが合成される。

以上のように、脂質は様々な役割があり、また脂質をもとに多くの物質が作られています。

脂肪酸とは

脂肪酸は脂質の主要な成分です。脂肪酸の長さによって短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸に分類されます。

「脂質の分類と役割」の項で挙げた脂質の役割について、これらは脂肪酸の役割とも言えます。

脂肪酸は体内で合成することもできますが、一部の脂肪酸は体内での合成ができません。その脂肪酸は食事などから摂取する必要があり、必須脂肪酸と言われています。必須脂肪酸を摂取しないと必須脂肪酸欠乏が起こり、様々な症状が現れます。

必須脂肪酸とは

体内では合成ができませんが、大切な働きをする脂肪酸を必須脂肪酸といいます。

必須脂肪酸は、リノール酸、α‐リノレン酸を指します。

構造中の二重結合の位置によって、リノール酸はω6系(n-6系)、α‐リノレン酸はω3系(n-3系)と分類されます。リノール酸、α‐リノレン酸それぞれ代謝されることでアラキドン酸、EPA、DHAといった脂肪酸に変わっていきます。

リノール酸 ⇒ γ‐リノレン酸 ⇒ アラキドン酸


リノール酸:種子、穀類、植物油など
γ‐リノレン酸:月見草油、発酵油など
アラキドン酸:肉、魚、卵など

α‐リノレン酸 ⇒ エイコサペンタエン酸(EPA) ⇒ ドコサヘキサエン酸(DHA)


α‐リノレン酸:葉、根、紫蘇油、エゴマ油など
エイコサペンタエン酸(EPA):魚介類、藻類など
ドコサヘキサエン酸(DHA):魚介類、藻類など

必須脂肪酸欠乏症とは

必須脂肪酸を摂らなかった場合に起こってくるのが必須脂肪酸欠乏症です。主にω6系脂肪酸の欠乏によって起こります。

ω6系脂肪酸は細胞膜のリン脂質を構成する要素の一つであるため、欠乏によって皮膚の異常が見られやすいです。

皮膚異常(角質化、皮膚炎、脱毛)、毛細血管の脆弱化、視力低下、腎障害、成長遅延など
必須脂肪酸欠乏症は脂質を全く摂取しなかった場合、成人では約4週間、小児では約2週間で発症する可能性が高いです。
ω6系脂肪酸は普通に生活をしていたら欠乏することはほぼなく、油の多い現代の食事ではむしろ過剰に摂取しているくらいです。
しかし、点滴でのみ栄養を補給している状態の場合、点滴で脂質を投与しなければ、そのまま必須脂肪酸欠乏症につながってしまいます。
no-su
点滴ではなくても、クローン病の活動期などで脂肪を口から摂取できない状態が続いても、必須脂肪酸欠乏症につながる可能性がるので注意が必要です。

脂肪乳剤(イントラリポス)について

脂肪乳剤(イントラリポス)とは

点滴でのみ栄養を投与している患者さんに、脂質を投与しなければ必須脂肪酸欠乏症になってしまいます。
そのため、脂質の投与を目的とした輸液を使用する必要があります。この脂質のみを投与するための輸液を脂肪乳剤と呼びます。現在、日本では脂肪乳剤として「イントラリポス」が大塚製薬工場より発売されています。日本で発売されている脂肪乳剤はイントラリポスのみですので、脂肪乳剤=イントラリポスという感じになっています。

引用:大塚製薬工場 イントラリポス20%

no-su
脂質の入った輸液としては、同じく大塚製薬工場より、糖質・アミノ酸・脂質・電解質が含まれた「ミキシッド」という高カロリー輸液も発売されています。

脂肪乳剤投与の目的とは

脂肪乳剤によって脂質を投与することが出来ますが、その投与の目的について大きく2点挙げることが出来ます。

それは、「エネルギーの投与」と「必須脂肪酸の投与」です。

エネルギーの投与

脂質は9kcal/gという糖質、タンパク質(4kcal/g)に比べて大きなエネルギーを持っています。そのため、脂質を投与することで少ない量でたくさんのエネルギーを効率的に投与することが可能になります。

逆に脂質を投与しない場合、その分たくさんの糖質で1日の必要エネルギー量を確保しなければなりません。それは血糖値の上昇につながります。
これは「脂肪肝」につながる大きな問題点でもあります。

~高血糖と脂肪肝~

高血糖が脂肪肝につながる流れは以下の通りです。

  1. 血糖値が上昇
  2. インスリンが分泌
  3. インスリンによる、中性脂肪の合成
  4. 脂肪肝の発生

血糖値が上昇すると、体は「インスリン」という、血糖値を下げるホルモンを膵臓から分泌します。

インスリンは血液中のブドウ糖を細胞内に取り込むことでエネルギーとして利用します。そして余ったブドウ糖はグリコーゲンに合成され、それでも余っていれば中性脂肪に合成されます。
この「グリコーゲン」と「中性脂肪」の合成もインスリンが促進させ、結果的に血糖値を下げてくれます。

臨床の現場で、点滴などで血糖値が上昇すると体はインスリンを分泌して血糖値を下げます。それでもまだ血糖値が高ければ、薬である「インスリン製剤」を使用し、血糖値を下げようとします。
そして血糖値は下がりますが、中性脂肪は増えていきます。

こうして増えた中性脂肪は脂肪肝につながります。

まとめると、点滴の際に脂質を投与しないことで糖質の量が増え、高血糖になり、インスリンの働きで脂肪肝につながります。高血糖を是正するためのインスリン製剤でも、脂肪肝につながります。

つまり、点滴を選ぶ、インスリン製剤を使用するという医療行為によって脂肪肝が発生してしまう可能性があります。

脂肪乳剤(イントラリポス)の投与によって糖質による高血糖を防ぎ、脂肪肝を防ぐことが出来ます。脂肪を投与した方が脂肪肝を防ぐことができるのです。

必須脂肪酸の投与

脂肪乳剤(イントラリポス)のもう一つ重要な役割が、必須脂肪酸の投与です。

必須脂肪酸は体内では作ることが出来ないので、外から補給しなくてはいけません。脂肪乳剤には必須脂肪酸も含まれているため、必須脂肪酸欠乏症を予防することが出来ます。

必須脂肪酸欠乏症の予防のためには、イントラリポス20%100~250mLを週2回投与することで予防できるとされています。

no-su
NSTラウンドで脂肪乳剤を投与されていないのを見つけた時には、「必須脂肪酸欠乏症予防のために、脂肪乳剤をせめて週2回投与してはいかがでしょうか?」という提案を、主治医に向けてすることもありました。基本はもちろん毎日の投与なのですが。

イントラリポスの組成

規格とエネルギー

有効成分は精製ダイズ油で、イントラリポス10%には精製ダイズ油が10%、イントラリポス20%には精製ダイズ油が20%入っています。

イントラリポス10%:250mL(約275kcal)

イントラリポス20%:50mL(約100kcal)、100mL(約200kcal)、250mL(約500kcal)

脂肪酸組成

必須脂肪酸を含有し、必須脂肪酸欠乏症を予防します。

  • リノール酸(ω6系脂肪酸):53%
  • リノレン酸(ω3系脂肪酸):7%
  • オレイン酸:24%
  • パルミチン酸:12%
  • ステアリン酸:4%

イントラリポスの使い方

脂肪乳剤であるイントラリポスを実際にどのように使っていけばよいのかをまとめていきます。

イントラリポスの投与速度

点滴での投与速度について、添付文書では以下のようになっています。

イントラリポス輸液10%

通常、1日500mL(ダイズ油として10%液)を3時間以上かけて点滴静注する。

イントラリポス輸液20%

通常、1日250mL(ダイズ油として20%液)を3時間以上かけて点滴静注する。

引用:イントラリポス輸液10%、20% 添付文書

添付文書に書いてあるのは薬の使い方のルールですので、上記の使用方法で問題ないと言えばないのですが、1991年に入山圭二さんという方が、イントラリポスの投与速度についてある報告を行っています。

この報告は、イントラリポスの投与速度が速いことによって、イントラリポスの人工脂肪粒子であるTG(中性脂肪)が、脂肪酸に代謝されずに血液中にたまってしまうという問題点と改善方法を示しています。

血中TGが上昇しすぎると、免疫低下や血栓形成といったリスクがあります。また、血中TGが上昇しないということはそれだけ効率的に脂肪を利用できているということになります。

この報告を要約すると、

・0.3g/kg/時でイントラリポスを投与すると血中TGが上昇した。(添付文書の投与速度)
・0.1g/kg/時でイントラリポスを投与すると血中TGは上昇しなかった。
※「g」は脂肪の量、「kg」は患者さんの体重、「時」は投与時間を示します。
つまり「添付文書よりもゆっくりとした速度でイントラリポスを投与するべき」という報告です。
これをもとに、静脈経腸栄養ガイドラインでも脂肪乳剤の投与速度について述べています。
脂肪乳剤は0.1g/kg/時以下の速度で投与する⇒グレードAⅡ
引用:日本臨床栄養代謝学会 静脈経腸栄養ガイドライン

この「0.1g/kg/時」という数字は、脂肪乳剤の投与速度を考えるうえで、現在とても基本的なものになっています。

また、イントラリポスが有効利用されているか確認するために、血中TG値が300mg/dL以上の高値になっていないかを確認することも重要です。

投与速度の計算①

イントラリポスの投与速度として「0.1g/kg/時」ということが分かりましたが、実際の投与速度はどう計算すればよいのかという点が難しいかと思いますので具体例を挙げて紹介して胃と思います。

イントラリポス20%250mLを体重50kgの方に投与する場合

  1. イントラリポス20%250mLには脂肪が250mL×0.2(20%)=50g
  2. 体重50kgの場合、0.1g/kg/時×50kg=5g/時 ⇒1時間あたり5g投与
  3. イントラリポス20%250mLに50gの脂肪が入っているので、50g÷5g/時=10時間

というわけで、この条件だと「10時間以上かけて投与」しましょうということになります。

ちなみに、添付文書だと「3時間以上かけて投与」となっています。だいぶ違いますね。

投与速度の計算②

0.1g/kg/時だと計算が大変、という時に簡略した計算方法もあるので紹介します。

  • イントラリポス10%:(体重)mL/時
  • イントラリポス20%:(体重×1/2)mL/時

イントラリポス20%250mL、体重50kgの場合で計算すると、以下のようになります。

  1. (体重×1/2)mL/時=(50×1/2)mL/時=25mL/時⇒1時間当たり25mL
  2. イントラリポス250mLだと、250mL÷25mL/時=10時間
no-su
ちなみに、大塚製薬工場に、添付文書の速度(0.3g/kg/時)で投与したことで発生したと考えられる有害事象の報告はありますか?と聞いたことがありますが、特にないということでした。

イントラリポスの投与経路

イントラリポスは単独投与が基本になります。

ただ、実際には「側管からの投与も可能」とされています。

中心静脈ラインの側管から投与可能である。⇒グレードBⅢ

引用:日本臨床栄養代謝学会 静脈経腸栄養ガイドライン

しかし、微生物の発生を防ぐためにイントラリポス投与後には生理食塩水でフラッシュを行う必要があります。

また、イントラリポスは他の薬剤と混合することによって、人工脂肪粒子の粗大化や凝集をきたす可能性があるため側管から投与する場合は、注意が必要です。

側管から投与する場合には、「栄養輸液中には糖・電解質・アミノ酸・ビタミン・微量元素以外のものが混注されていないこと」が重要になります。

no-su
栄養輸液中に薬剤が混注されていることは少なくないので気を付けましょう。

イントラリポスの特徴と各症例

糖尿病

エネルギー投与として、糖質をたくさん投与すると血糖値が上昇し、血糖コントロールが難しくなります。インスリン製剤を使用し、脂肪肝につながってしまう可能性もあります。

糖尿病の人に脂肪乳剤としてエネルギーを投与することで糖負荷を少なくすることが出来ます。

心不全、腎不全

心不全、腎不全の方は水分コントロールが難しく、完全静脈栄養の場合、脂肪乳剤なしで目標エネルギーを達成しようとすると水分量が多くなってしまいます。

脂肪乳剤は水分あたりのエネルギー量が多いため、水分制限されている患者さんに対して、有用なエネルギー補給の方法となります。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

呼吸商(RQ)という栄養素を分解したときの二酸化炭素の発生する量を表す数字があります。「呼吸商が大きいほど二酸化炭素を多く発生する」と言えます。

糖質、タンパク質、脂質の各栄養を比べた際に、それぞれの呼吸商は「糖質:1.0」、「タンパク質:0.8」、「脂質:0.7」となります。つまり、糖質が最も多く二酸化炭素を発生し、脂質が最も少ないということになります。

COPD患者は肺機能が低下し、呼吸による換気(酸素と二酸化炭素の交換)が難しくなっています。糖質によって二酸化炭素が多く発生した場合、呼吸器系に大きな負担をかける可能性があります。

そのため、呼吸商の低い「脂質」が二酸化炭素の発生が少なく、COPD患者へのエネルギー投与として優れていると考えられています。

炎症性腸疾患:クローン病、潰瘍性大腸炎

クローン病などの炎症性腸疾患に対して、成分栄養剤であるエレンタールがよく使われます。しかし、エレンタールには脂質がほとんど含まれていないため、炎症性腸疾患の活動期で口から脂質を摂れない時には、点滴での脂肪乳剤の投与が必要になります。

イントラリポスの注意事項

  • 禁忌:血栓症・重篤な肝障害・重篤な血液凝固障害・高脂血症・ケトーシスを伴った糖尿病
  • 慎重投与:肝機能障害、血液凝固障害、呼吸障害、低出生体重児、重篤な敗血症
  • 併用注意:ワーファリン(原料のダイズ油に由来するビタミンK₁がワーファリンの作用を減弱する可能性がある)
  • 血中TG値を定期的にモニタリング
  • 24時間で脂肪乳剤投与に用いた輸液ルートを交換する
  • 中心静脈ルートの側管やポートから投与可能だが、20mL程度の生理食塩水でフラッシュが必要
  • 側管から投与する場合は、栄養輸液中に糖・電解質・アミノ酸・ビタミン・微量元素以外の薬剤を混注しない

イントラリポスは、微生物が発生しやすいので注意が必要です。そのため、輸液ルートの交換や生理食塩水によるフラッシュが必要です。

まとめ

脂質は3大栄養素として重要なのは誰もが知っていると思います。しかし、点滴の内容を考えるときには、なぜかそのことは忘れられてしまいがちです。

私が病院で行っていたNSTラウンドでも、脂肪乳剤の追加をたくさんたくさん提案してきました。栄養の基本である脂質でさえこの扱いなので、まだまだ栄養という分野が浸透されていないのだろうなと強く感じています。

急性期の病院では在院日数が短いため、脂肪乳剤の効果をなかなか実感しにくいのが原因かもしれません。今は在宅でTPN(中心静脈栄養)を行っている方などに適切に脂肪乳剤が使用されているのか心配です。

最新情報をチェックしよう!