現在、経腸栄養剤には医薬品、食品扱いのものを含めて様々な種類のものがあります。たくさんある経腸栄養剤からどのようなものが適しているのかを考えるときに、その入り口として、経腸栄養剤の基本的な分類を知っておくことが重要です。
経腸栄養剤はその組成と制度という点で大きく分類することが出来ます。今回はこの分類についてまとめてみたいと思います。
経腸栄養とは
栄養療法には大きく2種類あり、経腸栄養と静脈栄養に分けることが出来ます。
経腸栄養剤はその名の通り、腸を利用する栄養剤です。
経腸栄養はEN(enteral nutrition)とも呼びます。
通常は口から食事を摂取するのことが多いですが、胃瘻などから摂取することもあります。この場合は口からは摂取しませんが、胃瘻・腸瘻などで使用する場合も腸を使用するため経腸栄養剤に含まれます。
経腸栄養の重要性は日本臨床栄養代謝学会が発行している静脈経腸栄養ガイドラインで示しています。
腸が機能している場合は、経腸栄養を選択することを基本とする。⇒グレードAⅡ
経腸栄養が不可能な場合や、経腸栄養のみでは必要な栄養量を投与できない場合には、静脈栄養の適応となる。⇒グレードAⅢ

経腸栄養剤の組成による分類
経腸栄養剤を組成で分類する時に、その違いは一言でいうと「窒素源」です。
窒素は食べ物の中のタンパク質に含まれています。タンパク質が消化されていくにつれ、ペプチド、アミノ酸へと分解されていきます。
人が摂取する「窒素源」として、この「タンパク質」、「ペプチド」、「アミノ酸」のどれが含まれているかで経腸栄養剤を分類することができます。
半消化態栄養剤(窒素源:タンパク質)
経腸栄養剤として最もメジャーで、医療用、食品あわせて多くの種類が存在するのが半消化態栄養剤です。
消化・吸収が保たれている場合は、半消化態栄養剤を第一選択とする。
⇒グレードAⅢ引用:日本臨床栄養代謝学会 静脈経腸栄養ガイドライン
窒素源はタンパク質であり、医療用の半消化態栄養剤としてはラコールNF、エンシュア、エネーボ、イノラス、アミノレバンがあります。

消化態栄養剤(窒素源:ペプチド、アミノ酸)
ペプチドとはアミノ酸が2~49個つながったものです。消化態栄養剤の窒素源としてはこのペプチドになります。
ただし、消化態栄養剤中のペプチドはジペプチド、トリペプチド(それぞれアミノ酸が2個、3個つながったもの)という低分子ペプチドのみで構成されています。
ペプチドはタンパク質よりも吸収されやすいです。
そのため、消化・吸収障害やクローン病、周術期に用いられます。
クローン病や消化・吸収障害がある場合には成分栄養剤、消化態栄養剤が適応である。⇒グレードAⅠ
引用:日本臨床栄養代謝学会 静脈経腸栄養ガイドライン
医療用の消化態栄養剤としてはツインラインのみです。

成分栄養剤(窒素源:アミノ酸)
窒素源としては最も小さい単位であるアミノ酸のみを含みます。
成分栄養剤は医療用であるエレンタール、ヘパンのみが発売されており、食品扱いのものは存在しません。
消化態栄養剤と同様、消化・吸収障害やクローン病、周術期などに用いられます。
特に炎症性腸疾患の方に対して、医療用の消化態栄養剤のツインラインと比べて、エレンタールの方がよく使われている印象です。
炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)の寛解維持の目的で在宅経腸栄養を行う場合には成分栄養剤を第一選択とする。⇒グレードAⅡ
引用:日本臨床栄養代謝学会 静脈経腸栄養ガイドライン
エレンタールには脂肪がほとんど含まれていないため、クローン病である程度の期間エレンタールを使用する場合は必須脂肪酸欠乏に注意しなくてはいけません。
また、浸透圧が高く下痢につながるため、最初は濃度を薄くして使うといった工夫も必要になります。

経腸栄養剤の制度による分類
医療用である医薬品経腸栄養剤と食品扱いである食品濃厚流動食があります。
医薬品経腸栄養剤
医薬品経腸栄養剤は、その名の通り医薬品であるため、薬事法に規定されています。
国から薬価(薬の値段)が決められており、医師による処方でのみ使用が可能です。
医療費の自己負担は通常3割であるため、患者さんの自己負担としては薬価の3割負担で済みます。(残りの7割は医療費、つまり税金です。)
自己負担が少ないので長期で継続して使いやすいです。
医薬品経腸栄養剤は申請などの問題からその成分や組成などを簡単に変更することはできません。医薬品としての承認後に「やっぱりこの微量元素入れよう、もっと改良しよう」と思っても難しいです。
現在医薬品の半消化態の経腸栄養剤は、2019年に仲間入りしたイノラスを含めて「ラコール、エンシュア、エネーボ、イノラス、アミノレバン」の5つが発売されています。一体これらは何がどう違うのか、それぞれの特徴をまとめていきます。※アミノレバン[…]
食品濃厚流動食
食品濃厚流動食は食品扱いの経腸栄養剤です。
商品化や組成変更にかかる時間は短くて済むため、栄養素組成や味、粘度など多様な製品があります。
医薬品経腸栄養剤と異なり、その費用は全額が自己負担となります。継続使用するためには費用が問題になってきます。

食品濃厚流動食には、組成として亜鉛などの特定の栄養素が多く配合されているものや、形状としてゼリーのものがあったりと、医薬品経腸栄養剤にはない特徴があるものもあります。
最後に
栄養状態不良な方に対して、適した経腸栄養剤を考える際には、まずは適した窒素源ごとの組成を考えます。
次に医薬品経腸栄養剤、食品濃厚流動食の中から適した栄養剤を選んでいきます。
病院、クリニックの外来で処方せんとして経腸栄養剤を考える際には医薬品経腸栄養剤しか選ぶことはできません。費用の面では患者負担は少なくなるかもしれませんが、市販のものを含めると実際には様々な特徴を持った経腸栄養剤があります。
患者さんに適した経腸栄養剤を考える際には、医薬品以外の食品濃厚流動食についてもいくつか頭に入れておいた方がよいかもしれません。
非タンパクカロリー/窒素比とはアミノ酸が効率よくタンパク合成をすることができるための指標です。この指標は患者の状態、病態によって異なるためこれを理解することで適切なタンパク質(アミノ酸)の投与が可能になります。これは栄養療法において、フレ[…]