アルブミン(Albumin)は栄養評価の指標として一般的に使用されています。
このアルブミンとは何なのか、栄養の指標としてみるためにはどのようなことに気を付けて見ればよいのかをまとめたいと思います。
薬剤師としてはアルブミンは薬の働きに関わる一要因という存在ですが、今回はここには触れません。
栄養療法のモニタリングについて、JSPEN(日本臨床栄養代謝学会)が出している静脈経腸栄養ガイドラインでは以下のように定めています。
- 栄養療法施行中は、体重や血清アルブミン値などの栄養指標を用いた総合的な栄養アセスメントを週一回程度、定期的に行う⇒AⅢ
- 栄養療法の効果の判定は、栄養指標だけでなく、病態も考慮して多角的に行う⇒AⅡ
出典:日本臨床栄養代謝学会「静脈経腸栄養ガイドライン」
「AⅢ」、「AⅡ」というのは強く推奨するということです。
アルブミンは栄養指標としてとても重要なようですね。
それでは、今回の内容の要点をまとめておきます。
アルブミンについての要点まとめ
- 測定が容易
- 2~3週間前の栄養状態を反映
- アルブミン値は様々な要因で変動
アルブミンとは
血液中のアルブミン
血液中から血球成分(赤血球・白血球・血小板)を除いたものが血漿(けっしょう)です。
その血漿の中に入っているタンパク質の中でおよそ半分と、最も多く占めるのがアルブミンです。
+糖質、脂質 +無機塩類(Na⁺、K⁺など)
+水+老廃物(尿素、クレアチニンなど)
アルブミンは血漿中に最も多いタンパク質ですが、その多くは血管外に存在します。
アルブミンの働き
アルブミンの働きには大きく二つあります。
- 膠質浸透圧の維持
- 物質の運搬
膠質浸透圧の維持
膠質浸透圧とは、タンパク質によって生じる浸透圧の事です。
浸透圧とは、水を引き込む力と言い換えることもできます。
つまり、血液中の浸透圧が高ければ血液中に水分を保つことができ、低ければ血管外に水分が逃げていきます。
アルブミンは血管内に存在することで最も多く存在するタンパク質です。
それだけ膠質浸透圧に与える影響も大きいと言えます。
栄養障害や肝障害によってアルブミンの合成量が低下したり、腎障害や出血によってアルブミンの排泄量が増加すると、血中アルブミン量が低下します。
アルブミン量が低下することで膠質浸透圧が低下し、血液中に水分を保つことができなくなります。その結果、浮腫(血管外の水分が増えてむくんでいる状態)として症状が現れます。

物質の運搬
アルブミンは分子量約67000と非常に大きな構造を持っています。
出典:Wikipedia
大きな構造であるため、その構造中に電荷(プラスとマイナス)の偏りが生じます。
そしてその構造中のプラスの部分はマイナスの物質と、マイナスの部分はプラスの物質と結合することが出来ます。
アルブミンは血漿中に最も多く存在するタンパク質である上に、プラスとマイナスどちらの物質とも結合することができます。このため、様々な物質をくっつけては血液中をあちこちに連れまわします。これがアルブミンが物質を運搬できるという意味です。
アルブミンと結合した物質がどこか別の場所へ移動し、結合が切れるとその物質本来の働きをすることが可能になります。
アルブミンと結合する物質は沢山あります。
つまり薬剤はアルブミンと結合するとその薬効を示すことがありません。

アルブミンの一生
- 食事中のタンパク質が消化管でアミノ酸まで分解されて体内に吸収される。
- このアミノ酸を原料にしてアルブミンが合成される。
- アルブミンは膠質浸透圧の維持を行ったり、物質の運搬などを行う。
- 主に筋肉や皮膚で分解される。
このアルブミンの一生のどこかに異常が起きるとアルブミン値が上がったり下がったりします。
アルブミン値の利用
アルブミンの測定
アルブミンは血液検査によって測定することが出来ます。
基本的には血液検査する際の、測定するセット(CRP、AST,ALT、eGFRなど)に一緒に入っているかと思います。
なので「アルブミン値を測定するぞ」という気持ちがなくても、定期的に行う血液検査の結果にアルブミン値が入っていることが多いです。
病院での血液検査だけでなく、単に毎年の健康診断での血液検査でも確認することが出来ると思います。
採血が必要なので、血液検査には若干の痛みが伴いますが、この測定の容易さはアルブミン値を利用する上でメリットになります。
アルブミン値の意義
アルブミン値の基準値は「4.0~5.0g/dL」です。
このアルブミン値は栄養状態、肝機能、腎機能などの影響を受けます。
以下がアルブミン値が低下する具体例です。
- 食事が摂れなくてアルブミンの材料のアミノ酸がない
- 肝機能が悪く、アミノ酸をもとにアルブミンを合成できない
- 腎臓の濾過機能が壊れてしまい、尿中にアルブミンが流れ出てしまう
ただアルブミン値は様々な影響も受けるため、決して単純にアルブミン値が低いから肝機能が悪いと結び付けられるものではありません。
アルブミン値の意義は、栄養状態や肝機能を含む、その人の状態を絞り込むことができることです。アルブミン値単独では、臨床的には何も判断できません。
アルブミンが栄養に関してよく利用されるのは、「栄養状態が悪いかもしれない」という指標になり、経過を追うことで栄養状態の推移を見て取れるためです。

半減期(半分に減るまでの時間)
肝臓で合成されたアルブミンはしばらく働いた後、主に筋肉や皮膚で分解されます。
アルブミンが半分にまで分解されてしまうまでの時間を「半減期」といいます。
例えば、半減期が1日の薬の場合を考えます。体内に10mgの薬が入った時(1日目)、それが1日経つ(2日目)と5mgに減り、さらに1日経つ(3日目)と2.5mgと減っていきます。
半減期が経つごとに半分に減っていくというイメージです。
アルブミンの半減期は2~3週間と言われています。
つまり、〇月1日に合成されたアルブミンは〇月21日までに半分に減ってしまいます。

週間隔で測定する意義
アルブミンは半減期が長く、じゃあそんなに頻回に測定しなくてもいいのかな?と思われてしまうかもしれませんが、1~2週間隔くらいで測定することにも意義があります。
アルブミン値は1回切りの測定だと、「ある程度の期間の栄養状態である」という情報にすぎません。
しかし、1~2週に1回程度測定することで栄養状態の推移を見ることが出来ます。
アルブミン値が上がってくれば栄養状態が改善傾向と判断できますし、下がってくれば食事が摂れていない、投与カロリー不足などによる栄養状態が悪化しているという判断が出来ます。(あくまで他の要因がなければですが。)
つまりアルブミン値は単独では「ある期間の栄養状態」を示し、何度が測定することで「栄養状態の推移」を知ることが出来ます。
栄養状態が改善しているのかどうか、これは患者さんの病気が治っているのかどうかと同じくらい重要な情報と言えます。

補足:RTPとは?
アルブミンは半減期が長く、直近数日中の栄養状態を知ることはできません。しかし、アルブミン以外のものを利用することで直近の栄養状態を知ることが出来ます。
その際に利用するのがRTP(rapid turnover protein)というものに分類されるタンパク質です。特に栄養療法の変更前後や手術前後に測定することが有用です。
RTPについて簡単に紹介していきます。
アルブミンと同じく、様々な要因で数値が変動するので注意が必要です。

トランスサイレチン(TTR)
半減期は1.5~2.0日。基準値は20~40mg/dL。
甲状腺ホルモンやレチノール(ビタミンA)と結合して輸送します。
プレアルブミンとも呼ばれることがありますが、アルブミンの前駆物質というわけではありません。(電気泳動でアルブミンより陽極側にあるから)
TTR高値:腎不全、甲状腺機能亢進
TTR低値:低栄養、肝障害、感染症、悪性腫瘍
レチノール結合タンパク(RBP)
半減期は0.5日。基準値は2.2~7.4mg/dL。
TTRと似ていますが、レチノール(ビタミンA)を輸送するタンパクです。
RBP高値:過栄養性脂肪肝、腎不全
RBP低値:低栄養、肝障害、ビタミンA欠乏症、炎症、組織壊死
トランスフェリン(TF)
半減期は7~10日。基準値は200~350mg/dL。

アルブミン値の変動
既に申し上げた通りアルブミン値は単独では、栄養状態が悪いのか、それとも肝機能が悪いのか、他の原因があるのか、判断することはできません。それは、アルブミン値は様々な要因で変動してしまうためです。
アルブミンを適切に利用するためには変動する要因を知る必要があります。
アルブミン値が上昇する要因
脱水・腎不全・甲状腺機能亢進
特に脱水が重要です。水分の過不足は栄養療法をする上で重要な情報であります。
あわせてヘマトクリットやBUNなどの検査値が高値を示したり、口喝や皮膚の乾燥、尿量低下などがあれば脱水の可能性が高くなります。
アルブミン値が減少する要因
低栄養・肝機能障害・ネフローゼ症候群・吸収不良症候群・タンパク漏出性胃腸症・炎症・代謝亢進・熱傷
※吸収不良症候群とはクローン病や胃、膵臓の切除などが原因で起こります。また、タンパク漏出性胃腸症は胃炎、潰瘍性大腸炎などにより血中のアルブミンが胃腸に漏出してしまう状態をいいます。
このようにアルブミンは材料、吸収、合成、消費、排泄といった様々な要因で血中濃度が下がってしまいます。
炎症に至っては入院してくる患者さんには大体見られます。
アルブミン値で栄養状態を把握するためには
アルブミン値は様々な要因で変動してしまいますが、栄養状態の把握として使用する場合には何を注意してみたらよいのでしょうか。
変動要因の可能性を検討
炎症や脱水などアルブミン値に影響を与えるものの存在を確認します。
炎症であれば術後は特に高くなっている可能性が高く、CRP値でも確認することが出来ます。
栄養状態を反映する他の情報を確認
栄養状態を確認するための方法はアルブミンだけではありません。例えばBMIや体重・体重変化、食事摂取量、病歴、上腕周囲長なども栄養状態を把握する助けになります。
アルブミン値と合わせてこれらの情報もみることが重要になります。
最後に
アルブミンは直近の栄養状態を知ることはできませんが、定期的に測定していくことで栄養状態の推移を知ることが出来ます。測定も容易であるため患者・医療者の負担も少ないです。
ただアルブミンは栄養状態の指標として使う場合には、その使い方を間違えると誤った解釈をしてしまう可能性があります。
アルブミンは、「患者さんに何かしらの異常がある」ということを知らせてくれるための入り口として有用です。しかしそこから栄養状態が悪いのか、肝機能が悪いのかといったことを絞っていく必要があります。
「栄養状態が改善してきていると思ったら脱水しているだけだった」、「食事をすべて食べているのにアルブミン値が上がってこない」などはよく見られます。
アルブミン値を見るときには他の検査値や現在の患者さんの症状など、同時に他の視点もあわせて見ることが重要になってきます。
